農家 佐々木 大地

農家 佐々木 大地

佐々木大地

SASAKI DAICHI 農家
Interview

自らを「人見知り」と謙遜する素朴な人柄の佐々木さん。聞けば筆者とほぼ同年代でした。
農家として近隣では珍しい「グリーンボール」というキャベツの一品種や、きゅうり、ネギといった野菜をご家族で育てている一方、地域の消防団活動や、「自分にとっての楽しみ」と語る獅子舞の舞方を務めていらっしゃいます。
畑が広がるのどかな景色、澄んだ空気、遠くに見える山々…都会では得られない環境の下、インタビューをさせていただきました。

TAKAMORIJIN File No.026

佐々木大地

SASAKI DAICHI

農家

獅子舞(頭”かしら”を振る)

喋ること

素朴で優しい人柄の農家さん(二代目)。キュウリや長ネギを栽培するかたわら、地元の消防団に入り、瑠璃寺の獅子舞の頭「かしら」を振っています。筆者と同年代。これからの高森町を支えていく農家さん。

高森のキュウリとネギの美味さ、高森の獅子舞

農家 佐々木 大地

同じく農家をされている藤木さんからご紹介をいただきました。藤木さんとは同年代ですか?

今年34歳になるね。

じゃあ僕は一つ下、後輩です。(藤木さんとは)学校も同じでしたか?

学校も一緒だった。

同じ農家をされている家だから、色々とお話をされたりしましたか?

そうな。聡(藤木さん)も一緒の消防団だったもんでな。聡が先に消防団に居て、俺が後から入って話をするようになった。

同級生で、同じ消防団、お二人とも獅子舞に参加されて…

いやいや、聡は吉田だから、また違う地区になるね。獅子舞はそれぞれの地区にあるよ。

地区ごとにそれぞれの獅子舞があるんですね。

そうな。ここの地区は大島山で、瑠璃寺で獅子舞をやる。そういえば、前回は瑠璃寺の住職を取材してたでしょ?

はい。取材させていただきました。獅子舞は瑠璃寺でやられているんですね、一番有名ですよね。

「大島山の獅子舞」(長野県無形民俗文化財)は、屋台獅子の源流って言われとってな。

獅子舞は、どういった時に奉納されるんでしょうか?

(現在は)4月の第2土日に瑠璃寺の祭礼と、隣の日吉神社の祭礼があるんだけど、そこで奉納する感じだな。

なるほど。

獅子舞は上から下まで色んな年代の方がいるね。上は70歳以上の方もいるね。保存会っていう形でみんな参加しているね。

その中でも若手の方が獅子舞の舞方をされると?

そうな。

農業もしながら、地域の獅子舞の祭りに参加されるのは大変じゃないですか?

忙しいけど、楽しいね。奉納が終わった後にみんなで交流したりな。

打ち上げ的なこともあったり。

そうだね。直会して、2次会で焼き肉(笑)

飯田の焼肉って僕らが知っている焼肉とはまた違いますよね。

マトンがメインでね。遠山ジンギスも有名だな。

(インタビューをしているテント内で無線の音が…)

これは、親父の趣味、道楽だね。アマチュア無線だよ。

(同行カメラマン)これ面白い!(笑)写真撮って良いですか?

いいよ。俺のじゃないけど(笑)これ、世界中でやっとるでな。

お父さん、面白いですね(笑)こちらはお父さんの代からずっと農家をやってらしたんですか?

そんなことはなくてな。親父は昔農家をやっとったけど、儲からんっていうので、長年サラリーマンをやっていたよ。それで早期退職してまた農家を始めたんよ。

こちらは農家としてはけっこう広い畑があるように見えるのですが…。

うちは家族だけだから、そんなに広くはない(笑)でも、どこもこれくらいの広さだな。
ゴメスさんの記事も見させてもらったけど、ゴメスさんほど広い畑は持っていないな。

読んでいただいてありがとうございます(笑)
そうなんですね。来週からはキュウリの最盛期と伺いました。

そうな。露地栽培のきゅうりも始まるでな。

他にはどういった農作物を?

メインでやっているのはネギ。うちは野菜だけだな。

野菜だけってこの地域では珍しいですよね。

山吹の方ではどこも果樹をやっているけど、この市田の辺りは野菜が中心の農家さんが多い。
今、農協でもこの地域はキュウリと柿を推してるからな。この辺りで就農するってなると、大体キュウリと柿だな。ぶっちゃけると、その二つが売り上げになりやすい(笑)

(笑)そうなんですか。ネギは農期が秋くらいになりますよね。キュウリの時期が終わったら、畑は休ませるんですか?

そうだね、キュウリはハウス栽培していて、終わったらサニーレタスを入れる。それで春に出荷だな。

通年で色々なお野菜を作っていらっしゃるんですね。

あとは、グリーンボールっていうキャベツの一種を育てているね。

グリーンボール?あまり聞いたことのない野菜ですね。

(グリーンボールを持ってきてくださいました)これな、キャベツは平べったくなるけど、これはボール型になる。それで、普通のキャベツより栄養価が高いんだよ。あと、キャベツより柔らかい。

へぇ~こういうキャベツもあるんですね。あまり都内では見かけない種類ですよね。

そうなんだ。グリーンボールは群馬の辺りではよく作られているみたいだけどな。キュウリが終わった後、何か作れないかな、と相談して教えてもらったんだよ。

家業を継がれて何年目ですか?

継いでから2年目かな。俺も10年間サラリーマンやっとったよ。

どういったお仕事を?

製造業。セラミックを研磨する仕事だね。最終的には、医療機器になるようなものを作っていたね、胃カメラの先端に付く部分とかね。あとはセラミックで指輪とかペンダントを作っていたよ。

なるほど。家業を継ぐきっかけは何かあったんでしょうか?

親父がやっていたっていうのと、あとは前の職場でうまくいかなくなったことがきっかけ。
2年研修して、新規で就農した感じだね。

農家をされていて、よい部分や大変な部分、どちらもあるかと思います。

そうな。色々と難しいことばかりだな。朝も早いしな。今だと午後はひたすらにキュウリの手入れしてな。

やはり手入れは大変ですよね。

そうな。やりすぎちゃってもいかんしな。

佐々木さんは子供の頃はどんな感じでしたか?

自分じゃわからんな~。大人しかったと思うけどな。子供の頃の記憶って忘れちゃうから(笑)

そうですか(笑)学生の頃はどうでしたか?地域の学校に通われたんでしょうか?

地域の小学校に行って、って感じだね。高校は飯田工業の定時制だな。中学校行かなかったんよ。中学は行かないで、うちでゴロゴロしてアニメ観てたね。

どんなアニメが好きでした?

俺はバスケやってたもんで、『スラムダンク』とかよく観てた。今映画が話題だな。まだ観てないけどな。あとは『らんま1/2』とかな。ちょっと昔の王道的なやつが好きだったね。

その頃の趣味は今も続けられていますか?

今は忙しくてな。趣味じゃないけど、獅子舞がずっと好きだな。

この辺だと獅子舞沢山ありますからね。僕も4月に宿泊した時、ちょうど獅子舞をやっている時期で、屋台獅子を観たんですよ。

そうだな。あれって3月の終わりから4月の第2土曜まで一気にやるもんでな。

あんな大きい獅子舞って他の地域だと無いですよね。

なかなか無いね。全国に獅子舞自体は沢山あるんだけど、ああやって屋台を組んで、人が中に入るような作りの獅子舞はなかなか無い。
上伊那と中川と飯島の境くらいまでしかこの獅子舞はないね。瑠璃寺は900年前から歴史があるんだけど、瑠璃寺の獅子舞も同じ時期に始まっとるんよね。屋台獅子に変わったのは江戸時代なんよね。

屋台獅子になったきっかけがあったんでしょうね。

江戸時代にね、戦国の世から平和になって、物が大型化していく風潮があったんだよね。全国でも山車や青森のねぷたも大型化していったわけでね。そういう風潮がこの辺りでもあったんだろうね。それが今も残っているんだろうね。

次のお練りの予定はいつ頃になりそうでしょうか?

ここの獅子舞は、なかなか外に出していくのが難しくって。他の獅子舞は所望があるんだけど、この獅子舞は瑠璃寺へ奉納するためだけの獅子舞なんだよね。

瑠璃寺の獅子舞は地域限定になるんですね。

そうそう。だから、獅子舞フェスティバルっていうのがあるんだけど、そこで10分とか15分で演舞してくれ、って言われても一連の流れで一つの儀式だからできなくなっちゃうのね。これは「~の舞」って区切れるわけじゃないから、せめて20分はほしいんだよね。

一連の流れで完成するってことですね。

そうそう。その中に物語があるんだよね。だから、30分くらい尺をもらえれば演目が出来る感じだね。それで、瑠璃寺の獅子舞のルーツを探ろうって、駒ヶ根の光前寺ってお寺は瑠璃寺と同じ宗派なんだけど、その光前寺から江戸時代に芸能を習っていたっていう流れがあるんだよね。それで、光前寺に奉納させてほしい、って演舞をやりに行ったりね。それで、滋賀県の比叡山にある日吉大社は瑠璃寺の守り神の日吉神社の総本社があってね、そこでも奉納をさせてもらったね。コロナ禍になる少し前だったかな。こうやってルーツを探っていく、歴史を見ていく、っていうのをこれからもやっていかなきゃな、と思っているね。

なるほど。そういったルーツとなったお寺への奉納以外に、何か歴史を伝える取組はされていますか?

そうな、歴史を探る取組もそうだし、次の世代の子供たちに教えていくってことだね。この間、こども獅子舞をやろう、って話が出たんだけど、コロナで中止になっちゃって。代わりに「瑠璃寺の獅子舞を知ろう」ってワークショップをやったんだよね(ワークショップの資料を見せていただきました)。その時は、住職(瀧本さん)から、「獅子って何?」ってところから話を始めてね。

お子さんはこういうの好きなんじゃないですか。

そうな。ワークショップをやってすごいよかったと思うし、子供たちも楽しいって言ってくれたのがよかったね。獅子舞で登場する宇天王、鬼、猿、陵王の面、獅子頭を実際に触れるようにしたら、すごく楽しんでくれた。俺が子供の頃なんて、お面や獅子頭は触らせてもらえなかった。

神聖なもの、って扱いだったでしょうからね。こども獅子舞というのは、子供のサイズに合わせて作ってあるんでしょうか。

そうそう。2人ないし3人入って舞をやる。それで交代しながら舞をやっていく。そうやって獅子舞は地域によって非常に力を入れているから、学ぶところは学んでいきたいよね。

ワークショップは定期的に行われていますか?

今回はコロナで3年近くほとんど奉納が出来なかったから、歴史とかを改めてもう一回知ろう、という感じでやったんだけど、これは定期的にやってもいいように思うよ。

そういえば、高森人図鑑は全部見れていないんだけど、けっこうな数を取材しとるね。

今年から僕が取材をさせていただくことになって、まだお二人目なので、質問が探り探りになってしまって、すみません(汗)

いやいや。前回の記事も含めて、えらい大島山で固まってるよな(笑)

確かに(笑)瑠璃寺もお近くですからね。わらしべ長者じゃないですけど、そういった感じで繋がっていくのもアリかもしれませんね。

佐々木さんが思う、高森町の地域として「良いところ」はどういったところでしょうか。例えば気候が良いとか。

そうね。やっぱり景色はいいね。仕事をしとって、疲れるとずーっと山を見てはボーっとして休んでるよ。

いいですねぇ。この辺りは空気が澄んでいる感じがするんですよね。

そうな。標高もある程度高いからね。標高が低い土地と比べると3℃くらい違うから。

個人的には、この辺りの空気は草木の匂いがすごくするんですよね。

俺はこの辺りに住んでるから、あんまり意識したことがないな(笑)当たり前にあるからね。それがやっぱり田舎の魅力なんでしょうね。

ゴメスさんも同じようなことをおっしゃっていたんですよね。

都会はね、暑いし、ビルばっかりだし。でもこの辺も夏は暑いし、冬は寒いよ。

とは言え、空気がカラッとしています。

確かにジメジメした感じはないかな。

この辺りに住んでいる人はどういう方が多いですか?話しやすいというのを前回のインタビューでお聞きしました。

そうな。確かに上も下もなく喋るっていうのはあるかな。俺も小さい頃から獅子舞をやっとったもんで、上の人との付き合いも多いもんでね。気兼ねがない感じだね。

何か地域でお気に入りの場所やお店はありますか?

なかなか農業が忙しいもんでな、あまり出掛けることもないんだよな。でも、たまに行くのは『亀じぃ』かな。

『亀じぃ』ではどんなメニューを?

「せせり」とか「カマンベールチーズフライ」とかね。大体何でも美味しいから。昼はラーメンもやっているし、この後食べて帰ればいいよ(笑)

帰りのバスの時間と相談して決めようと思います!(笑)

県外の方や他の地域の方へおススメしたいものがありましたら、教えてください。

うちも作ってるけど、高森はキュウリとネギを作っている農家が多いから、お薦めだね。

キュウリの栽培方法って、農家さんたちで教え合ったりするものでしょうか。

そこは農家さん個人個人でやり方があるからね。でも教えてもらうこともあるよ。消毒のどんな薬剤をやっているとか。

この辺りは自然がありますから、水が良いとか何か秘密がありそうですけどね。

逆に山から直接だとかえって水が冷た過ぎるから、一度タンクに貯めて水を撒くようにしているよ。

お家の入口にあった生簀のようなため池ですね。なるほど。

あそこで昔、鯉飼っとった(笑)川から引いてきた水をあそこに貯めているんだよ。

(同行カメラマンより)この辺、猿が出ると思うんですけど、野菜を食べられちゃったりしますか?

野菜はあまり食べんね。でも、トウモロコシはすぐにやられるね。いたずらされることはよくあるよ。しょっちゅう出てくるからね。

そんなに猿はよく見かけるものですか?

猿は天気予報だと思っとる。雨の前によく出てくるんだよ。だから、猿を見かけたら、明日か明後日は雨だな、と思うわけ。それで天気予報みると、だいたい当たってるね。雨の中出てきた猿も見たことあるよ(笑)

この辺りはそういった動物をよく見かけますか?

何でもいるよ。鹿、猪、熊ね。今は鳥獣害の電柵が付いたもんで、大きい動物は民家まで入ってこなくなったけど、猿なんかは関係なく入ってくるね。
近くに栗の畑があるんだけど、時期にはよく食べられちゃう。
猪なんかも、鉄柵の辺りまで来て、地面を掘り返しちゃうんだよ。

実際に山から下りてきた動物を見かけたことも?

あるある。今、露地のキュウリを育てている場所が田んぼだったんだけど、猪にぐちゃぐちゃにされたり、夜に仕事から帰ってきた時に前を動物が横切るとかね。

すごい話ですね…。

鳥獣害の電柵が出来る前にすぐ近くで罠にかかった熊がいてな。子連れの熊でな。信州大学から猟友会が来て麻酔銃で対処してたな。「気をつけてな」とか言われたけど、そういう話じゃないだろ、勘弁してくれって(笑)

それだけ自然の多いところで農業をされている、ということですね。せっかくなので、畑を見せてください。

おお、いいよ。その前に、荷物になるかもしらんけど、これ持って帰って。

(グリーンボールを1玉譲っていただきました)

うわぁ、ありがとうございます!

ビニールハウスへ移動

ハウスはキュウリだね。キュウリは冬の寒さで成長が止まって、最後は枯れちゃうから、温度管理をしてる。冬前の11月まではハウスで環境を維持して収穫したいと思っているよ。

ネギ畑へ移動。整然と植えられたネギ、一言でネギと言っても、色んな品種があるそう。

植えられているのは、「名月一文字」というカッコイイ名前の品種。

この畑からの景色を見て休んどる。

ホントにいい景色ですね。

でもな、これもリニアが通るとどうなるかな、と思う。景色が壊れないといいな。

佐々木さんのように頑張っていらっしゃる農家さんが居る限り、僕らも応援していきます!

【お知らせ】

佐々木さんより今年の獅子舞についてお知らせをいただきました。

『瑠璃寺陵王の舞』
瑠璃寺900年祭の御開帳で約240年ぶりに復活した舞を9月3日に飯田創造館で舞います。『陵王の舞』が復活した翌年、瑠璃寺に奉納された陵王の面の製作者・井上欣一氏の能面展にて舞を披露します。展覧会と併せてご覧ください。

【編集後記】

本当にのどかな景色、澄んだ空気、都会では得られない自然豊かな環境が当たり前にある土地で、ご家族と農業に勤しんでいらっしゃる佐々木さん。
「人見知り」とはおっしゃいますが、時々見せる素朴な笑顔にほっこりと、優しい気持ちにさせてもらいました。さらにおみやげまで。本当に優しい人柄でインタビューしながら癒されておりました。僕もまた、あの景色を観に行きたいと思います。

(了)

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写真:Noémie
文:Hattori
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※本記事は2023年8月8日時点の内容を掲載しております