特別編「大島山の獅子舞」現地レポート

特別編「大島山の獅子舞」現地レポート

大島山の獅子舞

特別編
Introduction

長野県・下伊那郡に伝わる一風変わった「屋台獅子」というものがあります。その源流と言われている瑠璃寺で催される「大島山の獅子舞」を現地取材してきました。

Special Report No.001

大島山の獅子舞

毎年4月第2日曜日(宵祭は前日土曜日開催)

天台宗 瑠璃寺(〒399-3106長野県下伊那郡高森町大島山812)

本祭:13:00~(※宵祭:前日土曜18:00~)

【公共交通機関の場合】
 高速バス「高森」より徒歩15分
【お車の場合】
 松川インターチェンジより10分
 座光寺スマートインターより5分
 ※駐車場15台(大型バス駐車場有)

見物は無料

特別編「大島山の獅子舞」現地レポート

長野県・下伊那郡に伝わる一風変わった「屋台獅子」というものがあります。その源流と言われているのが毎年4月に瑠璃寺で催される「大島山の獅子舞」です。猿や鬼や獅子を紐で引く「宇天王」が登場するのもほかの獅子舞とは異なる特徴です。お囃子を響かせながら練り歩くダイナミックな獅子舞は、高森町の春の風物詩といっても過言ではありません。長野県の無形民俗文化財にも指定されており、色鮮やかな衣装や面、舞楽をベースにした舞もこの獅子舞ならではの魅力。そんな「大島山の獅子舞」を現地取材してきましたので、ご紹介します。獅子舞の関係者へのインタビューも追って掲載しますので、そちらもお楽しみに!

高森町のある下伊那郡に伝わる伝統的な「屋台獅子」の源流として知られる「大島山の獅子舞」は、私たちがよく知る一般的な獅子舞とは異なり、獅子頭の後ろに幌(ほろ・和染めの布)をかけた大きな屋台が付き、獅子頭の使い手と10数名の囃子方が中に入って練り歩く「屋台獅子」という形態で、これは南信州地域特有のものです。下伊那郡では50ほどの団体が屋台獅子による祭典を行っていますが、その源流が、この「大島山の獅子舞」です。

祭事の起源は瑠璃寺が創建された1112年頃と言われ、今の「屋台獅子」の形になったのは江戸時代後期と言われています。関係者によれば、戦乱の世が終わって江戸時代になり、庶民も豊かになったことで祭りの山車や青森のねぷたが巨大化する傾向にあり、そうした流れの中で「屋台獅子」に変わっていったのでは、との説が有力だとか。また、通常の獅子舞はお正月などで邪気払いとして行われますが、瑠璃寺の獅子舞は寺に奉納するために開催されるのが特徴。登場する猿や鬼にも瑠璃寺や瑠璃寺の守り神である日吉大社のいわれが込められているため、それぞれに意味があります。そして、初めから終わりまでが1つの祭事という扱いとなるため、途中を省いたり、短縮できるものではないことから外に持ち出して開催する機会があまりないのも特徴です。まさに「ここでしか見られない」お祭りと言えるではないでしょうか。

【大島山の獅子舞 レポート】

では、実際に筆者も宵祭、本祭に参加してまいりましたので、獅子舞の様子をレポートしてまいります!

宵祭

まずは本堂の前で地域の子供たちによる祝詞上げから始まります。

続いて、こちらも子供たちによるお囃子が演奏される中で行われるこども獅子による舞が供されます。こども2人が入った可愛らしいサイズの獅子舞が目一杯に動くさまは、なんとも微笑ましいです。

こども獅子舞が終わると、今度は本堂前に「陵王」が現れ、場を清めるための舞を奉納します。「陵王(りょうおう)」は「舞楽(雅楽に舞が伴うと舞楽となります)」の曲目のひとつで場を清めるための宗教的な意味合いが込められています。

ちなみに、陵王が付けている面は「あごかけ」といって、口から下が分かれた形をしています。この面は瑠璃寺に伝わる宝物(ほうもつ)なのだそうです。

場面は瑠璃寺・本堂から客殿へ移ります。陵王が瑠璃寺の本堂へ入ると、次は日吉大社の使いである「猿」が現れ、陵王が清めた場所に人が入らないよう人々を整理し、さらに2人の鬼が現れ、時折唸り声を上げて場を制していきます。鬼がひとしきり駆け回った後、独特な足踏みをするのもポイントです。特別に屋台獅子の裏側を覗かせてもらうと、屋台の中は人が10数人は入れそうな大きさで、お囃子に使う太鼓が括り付けられていました。

そして、「宇天王(うてんのう)」が現れ、屋台獅子の前で舞を披露します。「宇天王」は仏教において文殊菩薩(三人寄れば文殊の知恵、の文殊です)が乗る獅子を鎮めると言われています。この辺りは古刹である瑠璃寺のルーツがうかがわれますね。「宇天王」の舞は舞楽由来の非常にゆっくりとしたもので、最小限の照明の中で舞う姿はなんとも幻想的です。

さて、そろそろ本番です。「宇天王」が地面に伏せて眠っている獅子を起こすと、いよいよ獅子舞が始まります。それまでのゆったりとした舞とのギャップに驚きます。まさに「静と動」、突然始まった荒々しい動きに見物客も興奮している様子でした。動き出した獅子は宇天王に手綱を引かれ、お囃子を響かせながら本堂まで練り歩きます。宵闇の中を進む獅子や猿や鬼の姿はまるで絵巻物のよう。また、瑠璃寺の客殿から本堂に至る境内の道は両側に桜があり、見逃せません。本堂まで到着すると、激しく動く獅子を宇天王が鎮めます。夜の闇に浮かぶシルエットが妖しくもダイナミックで見応えがありました。

宵祭ながら見物客も多く、ここでしか見られない瑠璃寺の獅子舞に歓声が挙がっていたのが印象的でした。ここまでで宵祭は一旦お開きです。

本祭

日曜日、いよいよ本祭です。気温は春先ながら25℃近くで暑いくらいでしたが、天気は晴れ、「獅子舞」日和といってもいいでしょう。

本祭は13:00からスタート。宵祭にはなかった出店がいくつか出ており、お祭り感がさらに増します。スタート前には、やはり猿が周囲を歩きまわっていました。ひょうきんでなんとも可愛らしいです。

瑠璃寺のご住職さん達と稚児行列が本堂から客殿に戻ると、お囃子が始まり、まずは陵王が場を清める舞を披露します。

宵祭と同様に2人の鬼が現れます。鬼が出す唸り声に見物客の中のお子さんは流石に怖がって泣いていました。そりゃ子どもたちは怖いでしょうね。

やがて宇天王が現れ、ゆっくりとした舞を披露します。盛り上がりの前の「フリ」のようにも思われてきました。そして、いよいよ宇天王が獅子を起こし、獅子舞が始まります。

明るい場所で見る獅子は、和柄の幌がよく映えます。屋台獅子は本堂へ向けて客殿の門を通るのですが、この高さがギリギリなのです。おそらく、屋台獅子となった時、門の高さに合わせて設計されたのでしょうね。

まだ桜の残る道を獅子が練り歩くさまは、実に写真映えします。大きな屋台獅子の前を歩く、後を付いていく見物客が獅子舞を取り囲むさまはお祭り感満載で、実に素敵な雰囲気でした。

そして、最後は本堂の前でクライマックスの舞が披露されます。最後の一仕事と言わんばかりに獅子が暴れまわります。これが実にダイナミックで歓声が上がります。

最後に屋台獅子に付けられていた「獅子花」を見物客に向かって投げます。「獅子花」を貰えると縁起が良いとか。これにて本祭も終了です。2日間に渡る祭典ですが、宵祭と本祭でまた違った雰囲気がありますので、個人的にはどちらも見物するのがおススメです!

(了)

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写真:Noémie
文:Hattori
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※本記事は2024年6月●日時点の内容を掲載しております